明文規定にない慣行は意外とあるもの

会社で働くときのルールに、就業規則というものがあります。
これは、「常時10人以上の労働者を使用する事業場」が作らなくてはならない、明文規定です。
また、10人未満の会社でも、作成するほうがベターです。

働く上でのルールや労働条件を定めたものとしては、就業規則以外に、労使協定、労働協約などがあります。

それでは、こういう明文の規定にはないが、いつの間にかできあがっていて、人づてに伝えられ、運用されているものがあります。

また、就業規則には決められていることとは異なるルールが、これまたいつの間にかできあがっていて、現実にはそのルールが生きているということもあります。

不文律とか慣行とか言われるものですね。

こうした「慣行」は、どう考えればいいのでしょうか?

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慣行が「事実たる慣習」レベルになると拘束力をもつ

労働基準法などの労働法規で、このことに関する明文規定はありません。
民法を見ると、その第92条にこんなことが書いてあります。

「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う」

つまり、事実たる慣習については、当事者が反対していなければ契約内容になるということです。
したがって、もし労使慣行が、「事実たる慣習」になっていれば、それが労働契約の内容になるということなのです。

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「事実たる慣習」とは?

それでは、労使慣行が「事実たる慣習」というレベルに達するためには、何が必要なのでしょうか?

判例に、次のようなものがあります。

「同種の行為または事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者か、またはその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識に有していたことを要する」

つまり---
・同種の行為または事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていた
・労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していない
・その慣行が労使双方の規範意識によって支えられている
---これらの条件を満たしていれば、その慣行は「事実たる慣習」となり、労働契約の内容となると言っていいのでしょう。

またもし、その「事実たる慣習」が就業規則と異なる内容であれば、就業規則を変更する必要があります。

ただの「慣行」は無視していい?

それでは、「事実たる慣習」にまで至っていない「慣行」は?
確かに、このような慣行は労働契約の内容にはならず、拘束力はもちません。
しかし全く無視するのも望ましくありません。従業員の方は、その慣行がこれからも続くと期待しているからです。
慣行を今後は改めるなどの場合、一方的に何かをするのではなく、従業員に周知をしてからにするとか、場合によっては、その結果不利益を被る従業員に個別に説明するなどの措置が必要かと思われます。

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