日本では人事異動が一般的に行われるが…

部署を移る人事異動、配置転換は日本の会社では一般的に見られる光景ですね。
昨今では職務内容を限定したかたちでの採用も見られますが、まだ主流とはいえません。

人事異動を命じられた社員が、喜び勇んで、あるいは納得づくで新しい部署に移るとは限りません。
場合によっては会社に異議申し立てをする例もありますし、そこまでいかなくても、意に沿わない人事異動は誰でもイヤなものです。

ところでこの人事異動、改めて考えてみると、一筋縄ではいかない問題をはらんでいます。
「労働契約」に立ち返って考えてみます。
配属される部署や職務内容というのは、この労働契約の内容になっています。
ということは、これらを変更する人事異動は契約変更。このようなことを会社が一方的におこなっていいものでしょうか?
このようなことから、人事異動が労務トラブルにつながることも珍しくありません。

会社はどのように対応すればいいのでしょうか?

結論からいうと、会社が人事異動をトラブルなく行うためには、就業規則に会社が業務の必要に応じて人事異動をすることがある旨を明記します。
こうすることで、配転命令権が会社にあることが明確になり、人事異動の際に会社が本人の同意を得る必要はなくなります。
ただし、労働契約の締結時に「人事異動は行わない」という特別の約束(特約という)をしていれば話は別です。このような場合は、本人の同意なしには人事異動を行ことはできません。

以下、この問題を詳しくみていきます。

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人事異動は会社が自由にできるのか

会社に入社すると、どこかの部署に配属されます。正社員の場合、職務限定契約のような場合を除くと、定期、あるいは不定期に部署を移っていきます。
また、部署が変わっても職務は変わらない場合もあれば、部署も職務も変わる場合もあります。
これを、「人事異動」とか「配置転換」といいます。

また、部署は変わらないが、職務が変わるという場合もあります。
たとえば、技術職として仕事をしていた人が、同じ部署の営業職に変わる場合などです。このようなものは「職務転換」といいますが、これも人事異動の1つと考えていいでしょう。

こうした人事異動は、法的に考えると「労働契約内容の変更」です。
では、人事異動を実行する際に、労働者の同意は必要でしょうか?
これについては、会社の「配転命令権」、すなわち、会社が労働者の職務、勤務場所等を決定・変更する権限がどうなっているのかが重要になります。
なぜなら、配転命令権が会社にあれば、人事異動という労働契約の変更は労働者の同意なしに行えるからです。
会社が配転命令権を持てるのはどういう場合かについては、次の2つの考えがあります。

・配転命令権は労働契約上使用者が当然に有する権限である
・就業規則や労働契約に明記して初めて使用者に与えられる権限である

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就業規則に明記する

このように、配転命令権の根拠については2つの考え方があります。
最初の考えに立てば、就業規則などに人事異動のことが記載されていなくても、会社は本人の同意なしに人事異動が行えますが、後者の考えに立てば、就業規則などに書かれていないと、会社は自由
に人事異動ができないということになります。

裁判などで争いになったときに、どちらの考えが採用されるかは何とも言えません。リスク回避という観点に立ち、人事異動のことは就業規則に明記しておくことをお勧めします。

特約がある場合は別

ただし、労働契約の締結時に「人事異動は行わない」という特別の約束(特約という)をしていれば話は別です。このような場合は、本人の同意なしには人事異動を行ことはできません。
こうした特約には、主に次の2パターンがあります。

職務に関する特約

営業職、研究職など、従事する職種を限定する特約をいいます。
専門職や契約社員などに見られる形態です。

勤務地に関する特約

勤務する場所を限定する特約をいいます。
特約の範囲については、転勤を一切しないとする形態と、転勤を一定の地域内に限定する形態とがあります。勤務地限定社員や地域限定社員などに見られる形態です。

上記のような特約がある場合は、それを変更する人事異動は行えません。もし、やらなくてはならない事情が発生したら、本人の同意を得なくてはなりません。いったん「しない」と約束したことをするわけですから、同意をとることは必須です。

ただし、このような特約は、労働契約などで明確に示されている場合に、初めて成立すると考えられます。
たとえば、求人広告に勤務地が記載されていても、それはあくまでも入社当初の勤務地を表示しているにすぎず、勤務地限定特約が合意されたということにはなりません。
したがってそのような場合は、転勤を伴う人事異動が禁止されるわけではないのです。

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