人事等級制度は概要設計から入る

3つの人事等級基準

賃金制度の背骨となるのが人事等級制度です。
人事等級というのは一言でいうと「社員のランキング」です。

ランキングをする以上、何をもってランクを決めるのかということがなくてはなりません。
それが等級基準です。

等級基準には、能力基準、職務基準、役割基準があります。
等級基準に何を採用するかによって、その会社の賃金制度の性格が決まるといっていいでしょう。

人事等級制度をつくるときの基準には何があるか」をご参照ください

どの基準を採用するのがいいのか

これは、職務(職務特性、職務遷移)と雇用形態、社員の発展段階によります。

職務と人事等級基準

職務との関係でいえば、職務が明確に定義でき、職務変更がほとんどないようであれば、職務給が向いていると言えます。
一方、柔軟な職務変更を行うような場合は、役割給や職能給が馴染みます。
また、専門性が高い職務については職務給や役割給を適用するのがいいでしょう。

雇用形態、社員の発展段階と人事等級基準

正社員は発展段階(エントリーレベル、ミッドレベル、ハイレベル)によって適合する等級基準が異なります。
エントリーレベルは、いわば育成段階。まだ、担当する職務領域やン会うべき役割は固まっていません。
そのためこのレベルは能力基準が適合します。
一方、ミッドレベル以上であれば、担当する職務のレベルや担うべき役割が問われますから、職務基準か役割機運が適合します。

一方、職務限定型正社員の場合、発展段階はッドレベル以上のはずです。
また職務が明確に定められています。

そうでなければ、限定のしようがありません。
よって、職務基準が適当です。

一方、同じ限定型正社員でも、時間限定型や地域限定型正社員については正社員と同様に考えていいでしょう。

また契約社員ですが、この形態は長期の勤続を前提としないのが原則です。
結果として契約更新を繰り返し長期に勤続している例も少なくありませんが、本来このような場合は正社員か限定型正社員に転換すべきでしょう。

いずれにしても、契約社員に期待されるのは既に身に着けている知識、スキルを活かして担当職務を遂行するということになりますから、職務基準、役割基準が適合します。
パートタイマーも契約社員と同様に考えていいと思われます。

等級段階数の設定

等級段階数は会社の業務実態、規模に対応して検討します。

段階が少なすぎると、同一資格に滞留する年数が長くなります。
当然、同じ資格にいる人の数も多くなります。

そのため、処遇にメリハリをつけることが難しくなります。

しかし、段階を多くしすぎると、上位等級と下位等級の違いが曖昧になります。

実務的には、まずは段階数を「仮決め」しておきます。
たとえば、非管理職層6段階、管理職層3段階など。
そのうえで、等級基準などの中身を設計していく中で、必要に応じて修正していくという方法を取ります。

昇格

昇格・降格とは、人事等級のランクの上がり下がりを指します。
一方、部長や課長などの役職の上下動を、昇進・降職といいます。

等級ランクの上下によって、賃金も上下します。
昇格・降格は賃金制度運用のポイントになる施策なのです。

昇格・降格は人事評価を判断材料に行います。
人事等級が求める要件(能力、担うべき役割の大きさなど)を対象者が満たしているか否かを判定するわけですから、人事評価抜きに実施することはできません。

ただ、人事評価は、評価対象期間に実際に取った行動や達成した成果、あるいは、現時点の能力のレベルを判定するものです。

つまり、人事評価で判定するのは、被評価者の「過去実績」および「現在価値」です。

しかし、昇格では、「その人を上位ランクに上げても、そのランクが求める要件を満たすことができるのか」を判定しなくてはなりません。
したがって、人事評価の結果に加えて、将来性も判定する必要があるのです。

卒業方式、入学方式

昇格には、「卒業方式」と「入学方式」があります。
「卒業方式」とは、「現在の等級の要件をクリアすれば昇格する」というやり方です。
たとえば、4級の人が、4級の要件を完全にクリアしていれば5級に昇格させるということです。

これは、「4級の要件をクリアしていれば、5級の仕事もできるだろう」という「期待値」に基づいた昇格です。

一方、「入学方式」とは、上位等級の仕事ができるかどうかを判定した上で昇格を決めるという方法です。

卒業方式のメリットは、基準がすっきりしているという点にあります。
4級の人は、当然4級の仕事をしているのですから、それを完全にこなしているかどうかを判定するのは、比較的容易です。

デメリットは、「4級の仕事を完璧にこなしていても、5級の仕事ができるかどうか、本当には分からない」ということです。
昇格させたものの、期待はずれだったという結果に終わる可能性があるわけです。
特に、降格がない場合、どうなるでしょうか。その資格等級にいる人が果たすべき役割を果たせない状態が、ずっと続いてしまいます。

入学方式のメリットは、昇格させても問題ないという確信が持てる点にあります。
デメリットは、上位等級の仕事を割り当てて、できるかどうかを判定できるかどうかは、現場次第という点です。
職場の状況、管理職のマネジメントに任されるわけです。
上位等級の仕事をこなす実力があるにもかかわらず、諸般の事情(仕事を担当させようにも、他の人がやっていて、担当させることができない、など)でその仕事をやっていなければ、昇格できないということになります。

そう考えると、昇格は、
1)卒業方式を最低要件として、入学方式を併用する
2)卒業要件を満たしている社員には、上位等級の仕事を割り当てるよう、人事部門が管理職に指示する
――という運用をするのが良いと思われます。

等級の概要を固める

人事等級それぞれで求める人材像のイメージを固めます。

まず、「〇〇等級の社員は一人前」、「〇〇等級の社員は担当業務のリーダー」というようなラベリングをします。

次に、ラベリングの内容を掘り下げていきます。たとえば、「一人前」という場合の知識レベルはどの程度なのか、日常どのような業務行動を取るのかといったことを分析し、等級概要定義をつくっていきます。

そのうえで、実在の社員で各等級に該当すると思われる人をピックアップし、等級概要定義にフィットするかを検証します。

このようにして人事等級制度の骨格が固まったら、さらに詳細な作りこみをしていきます。
詳細設計についてはまた別のパートで解説します。

わが社の賃金制度をどうするか

以上、今回は人事等級制度のつくり方について、その概要を解説させていただきました。

会社が発展していくうえで、人事制度、賃金制度の整備は欠かせません。
ヒューマンキャピタルは豊富な経験と専門性を元に、丁寧なヒアリングと綿密なミーティングをもってクライアント様に最適な賃金制度をアドバイスをさせていただきます。
ぜひ一度、ご相談ください。